05:消滅した多くの道具と職人
DTPが、デザインの現場に定着した2000年頃から10年以上経った今、とても意味のあった2つのことが、完全に忘れ去られようとしている。
1)DTPにより消滅した現代の職人たちは、具体的にどういう仕事をしていたのか?
2)DTPがなかった頃に、GDがどのような環境でデザイン制作していたのか?
印刷物はパソコンソフトで制作することが当たり前、という認識で育ってきた世代が、現在この業界を牽引している。
今後も印刷物は、多分なくなることはないだろう。だが紙である必然でない場合は、確実に印刷物は減っていく方向にある。
以前DTP革命で起こったことは、これからもきっと起こりつづけていくだろう。そして他業種でも、同じようなパラダイムシフトがあったはずだと確信している。
一昔前ではこんな社会通念があった。勉強ができなくても手に職をつけていたら、食いっぱぐれることはない。ところが技術革新の恩恵で、「あなたにしかできなかったことが、だれにだってできてしまう」という、コモディティ化が深化した世の中になってしまった。
職人ユートピアの世界が、職人ディストピアになりつつある。星火燎原、職人受難の時代が到来したのだろう。
今は、出力ビューローが、プロフェッショナルな人たち専用の場所ではなくなり、学生や一般人が多く利用するようになってきた。ノンデザイナー思考が高まり、ツールも豊富にある。誰もがその気さえあれば、あらゆるものをクリエイトできるようになった。そんな今だからこそ思うことがある。
DTPという潮流に飲み込まれて消えた道具や画材には、どんなものがあったのか。
DTP登場以前、印刷の周辺にいたGDやその関係の職人たちの、仕事は、一体どういう内容だったのか。
そのことを知りうる限り、ボクなりの形できちんと残しておきたいと思ったのだ。
失ったのは金の仕事ですか?
それとも銀の仕事ですか?
なくなってしまった金の道具と、金の仕事と、そして金の職人たちに捧げます。