消えてゆく職業の周辺

仕事を失うということ(デザイナー戦力外通告)

06:50歳で非正規雇用者になる

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ボクは現在53歳で、2003年からグラフィックとwebのデザイナーのフリーランスをやっている。2013年の5月ぐらいから、仕事が急激に減ってしまった。どうして減ってしまったのか心当たりは一応ある。ボクは出版系のクライアントが割りと多く、そのどこもかしこも紙の出版より「電子デバイス」の方にビジネスのウエイトがシフトしているのだ。

世間で大騒ぎするほど紙の出版物の営業利益が、実際に下落しているのかは不明だが、他社が手がけているのに、やらないワケにはいかない競争の原理もあるのだろう。シフトしているものでボクが把握しているのは、epub系、flash系、アプリ系といった、全て横文字もの。それらの横文字ものが、仕事の周辺で頻繁に囁かれるようになったのは、初代iPadが発売された半年くらい後のことだった。

当時、出版系のクライアントでは、「UIデザイン」という言葉も浸透しきっていない有様で、GDやWDにどう作ったらいいのか、仕事の相談を持ちかける機会が多かった。ボクもそのような相談をされたことがある。ただここ数年でUIデザインに特化した外注の会社や、flash職人、アプリ系に強い開発屋のコネクションを拡充したようで、まずお声がかかることはなくなった。
無精で怠け者のボクは、営業というのをやったことがない。よく人から「フリーなのに営業しないの?」と驚かれることが多いのだが、情けない話、どうやって営業すればいいのかやり方がわからないというのが本音なのだ。加えて外交手腕のセンスもない。下手に営業をするとボロが出てしまうということもある。玉切れになったら意固地にならず、あっさり廃業するつもりでいた。人生開き直りが肝心。お呼びがかからなくなったら、それはイコール戦力外通告なのだから、きれいさっぱり業界から足を洗い、ジエンドとしよう。
廃業は、デザイナーの美学の問題というより、人生における価値の問題なんである。仕事も大事だが、毎日生きていて良かった、と実感することをボクは最優先にしたいだけだ。全てのことは移ろい、明日何があるか予測できない今、切羽詰った時、「生き方」の代案のない人生には絶望しかない。折角の人生、絶望なんて真っ平ごめんだが、かといってリスクヘッジを考えながら生活するのも、少々息苦しいものがある。仕事がなくなり、矯めつ眇めつ自分の廃業について思いを巡らせていた。
6月のある日、携帯が鳴る。それは以前お世話になったクライアントさんからで、社員が次々と辞め、リソース(作業にあたる人)が足りなくなっているという。よかったらウチのプロダクションで手伝いをして欲しいという内容だった。まさに助け舟。

結局ボクは、webデザインのフォローをするということで週3日そこで働くことになった。3日にした理由は、まだフリーの看板を外してはいないからである。非正規雇用者として。いつ契約解除を宣告されるのかわからない立場だが、そんなスリリングさもこの際楽しもうと思う。ボクはあと何年デザイナーを続けられるだろうか。それにしてもここに至るまで、紆余曲折があったなあ、と感慨深い。

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