消えてゆく職業の周辺

仕事を失うということ(デザイナー戦力外通告)

03:クリエーターが花盛りの80年代

クリエーターが花盛りの80年代の頃

広告業界が、花形産業だと思われていたあの頃。
平凡な広告マンが、何故か頻繁にメディアに露出し、文化人やオピニオンリーダーのように騒がれていた。それが不思議とクレバーで洒脱な人たち、という折り紙つきの人物像に仕立てあげられていく。彼らは決まって本を出し、ウソのように売れる。その種のカルチャーに感化された者は、信者のように心酔し、こぞって広告業界を目指した。
牛丼の吉野家の企業スピリットであり、キャッチフレーズでもあった「うまい、やすい、はやい」をもじった「早い、うまい、高い、糸井」という、業界内での皮肉に満ちた流行語があったことを思い出す。売れっ子コピーライターの中には、当時キャッチフレーズ一本で100万円というぼろ儲けの噂もあったぐらいだ。
そういう時代だったのだ。

どんな職業でも2年もやれば、一人前に仕事をこなせるようになる、なんてよく言われている。どんなにドン臭い人間だって、デザイナーを2年もやれば、一通りなんでも出来るようになる。あとは、習得したことと、センスをひたすら磨けばいい。2年の下積みで、一生食っていける必要な技術を全てマスター出来るはずだった。
ところがボクがこの世界に入って3年くらい経った頃、なにやらこの業界に不穏な噂が立ち始める。

パソコンの画面を見ながら、デザインをする時代が来ている。
アメリカでは、そのやり方がスタンダードになりつつある。
デザイナーもパソコンを使いこなすスキルが必要だ。
紙やペンや画材はもう必要ない。全てパソコンに入っている。
キレイな線や複雑な曲線が簡単に描ける。
色も自由自在に使え、その上グラデーションも使える。
学校や職場で習得した技術が不要になる。
写植、版下といった印刷の基本工程が一切不要になる。
国内でも既に先駆的な事務所では、パソコンを導入したらしい。
どうやらそれはDTPと呼ばれている!

同年代で公立高校のデザイン科に進んだ人から聞いた話だが、その高校では「米粒」に面相筆で文字を書く練習を授業でやっていたそうだ。今でもそんな不毛に近いことをやっているんだろうか。デザイナー=手先が器用という考え方が前提の世の中だった。専門分野に特化した学校というのは、社会で必要な基礎の研鑽を積む機関であるべきなのに、いつも社会よりも半歩遅れている気がする。デザインの世界は、世の中より半歩先へ行く宿命を帯びている、といわれているだけに、やれやれ、という感じだ。

 

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